2026/07/11

風の時代

シーズン4の始まりと『風の時代』

ykpythemind 今回もお疲れ様でした!前作を出してから、どれくらい経ちましたっけ?『遭難』を撮ったのっていつだっけ。

トモヒロツジ 『遭難』は年始だね。

osd なんか、すごく寒かった記憶があります。

トモヒロツジ そうそう。藤本くんが忘年会のあとに撮影に合流したんだよね。

藤本薪 行った行った。

ykpythemind 1月10日に交流イベント(meet-up)をやってから、もう半年経ちましたか。早いね。あと、第四境界様の『都市伝説解体センター』のお仕事 都市伝説解体 センター試験 をさせていただきました。そして今回の作品が、形としてはシーズン4の1作目になります。

osd そうですね、シーズン4ですね。

トモヒロツジ 今回は『水源地』と言うホラーをとりました。

藤本薪 世間では、今は「風の時代」らしいですよ。

ykpythemind 風の時代?

トモヒロツジ エイジ・オブ・ウィンドってこと?

藤本薪 西洋占星術で、約200年ぶりに訪れた新しいパラダイムシフトらしくて。これまでの200年間は「土の時代」だったんだけど、それが「風の時代」になる。そしてこの風の時代が、またこれから200年続く。

ykpythemind その「土の時代」の200年は何が続いてたの?

藤本薪 土の時代は、物質やお金、ステータスといった「目に見えるもの」に価値を置く時代だった。でも、これからの風の時代は情報や体験、精神性といった「目に見えないもの」に価値を置く時代になるらしい。これって、ホラーこそが主役になる「ホラー元年」ってことですよね。

トモヒロツジ ほう。これから200年続く、新しいホラーの時代の幕開けってこと(笑)。

藤本薪 これから200年間、ホラーが席巻する時代が続きます。

『水源地』のコアと「換骨奪胎」

ykpythemind 今回の『水源地』は、どんな作品ですか。誰がネタを考えたんだっけ。

トモヒロツジ osdくんだよ。

osd 原案は僕ですね。ただ、最初に考えていた内容からは、だいぶ変わっています。

水源地の元となったプロット。実現性がなさすぎるとして没に。
水源地の元となったプロット。実現性がなさすぎるとして没に。

トモヒロツジ そうだね。元々は「水不足の村で、大量に水を使っている世帯」っていうテーマだった。

ykpythemind それだけでちょっと面白そうだもんな。

osd 「水」という概念そのものが、作品の中で前面に押し出されているかというと、完成版ではちょっと難しいラインなんですけど。でも、制作中のストーリーの芯の部分では、一貫して通しているところはあります。

トモヒロツジ 振り返ってみると、今回の作品って、舞台装置は「水」じゃなくても全く問題なかったかもしれない(笑)。これぞまさに「換骨奪胎(かんこつだったい)」ってやつ。

osd ……知らない言葉が出てきた。

藤本薪 知らない、四字熟語?

トモヒロツジ 先人の優れたアイデアや着想の骨格を借りながら、独自の工夫を加えて、全く新しい作品を生み出すことを指す言葉だよ。

トモヒロツジ 骨組みだけ残して、中身が全部ひっくり返ったよねってこと。またメンバーと知識レベルを合わせられなかったな……。

ykpythemind 辻、なんかムカつくな(笑)。

藤本薪 キモ・メンサ

トモヒロツジ 輝くばかりの悪口を言われてる…(笑)。まあ、換骨奪胎はいいとして、みんなであの骨組みをベースにしながら、もうちょっと「生活」というか、自分たちの日常に近いところに引き戻してきた感じだよね。

藤本薪 うんうん。そして今回の脚本は、僕が担当しました。

トモヒロツジ シーズン4自体が、ある意味「分業の季節」でもあるからね。

ykpythemind いや、そんなこと言ってたっけ?

トモヒロツジ 言ってたよ!シーズン4の裏テーマみたいな感じで、「あえて分業をしてみましょう」と提案したのはあなただからね。みんなで焼肉を食べているときに、「分業のシステムを考えてきたんだけど」って言い出したところから、この話は始まってる。

ykpythemind ああ、確かに。それぞれの役割に一旦注力してみようっていう話はしたね。

トモヒロツジ そうそう。ユキトが撮影・編集、オサダくんが3DCG周り、藤本くんが脚本、そして俺がその他。

ykpythemind 辻は「詳細家」だっけ?

osd そうそう

トモヒロツジ 「詳細家」ってなんなんだよ、無い役職の話をずっとされている…。全体のガバナンスを効かせるポジションとして動いたんだけど、実際はどこまで機能してたか。でも、撮影から編集まで「ちゃんと分業できているな」という手応えは個人的にあった。

藤本薪 お互いにすごく頼りにしていましたね。

トモヒロツジ ただ、脚本の藤本薪が、肝心なシーンに「ここで怖いことが起きる」とだけ書いて出してきたときは、「これは本当に分業できていると言えるのか?」と思ったけどな(笑)。

藤本薪 それも、分業です。

「日常」の嫌な緊張感と、テーマの源流

トモヒロツジ 元々のテーマから色々話が変わっていって、最終的に説明しづらい不気味さになったよね。完成した映像を見ても、怖いことは分かるんだけど、「何が怖いのか」と言葉にするのは結構難しい。

ykpythemind 自分で絵コンテを切っていると、初見の人がどう思うのかが本当に分からなくなっちゃうんだよね。

トモヒロツジ 俺らもストーリーを知っちゃってるからね。「この絵は怖いな」とは思うけど、話全体が初見でどう映るかは評価できない。

osd ただ、「不気味かどうか」はハッキリ分かりますよね。

ykpythemind 見ていて退屈するような作品にはなっていないと思う。

藤本薪 そこは僕が今回一番気をつけたところです。視聴者の視点を「日常」からスタートさせて、そこからホラー以前の人間関係における「嫌な緊張感」をしっかり出した上で、怪異に入っていく構成にしたくて。今回は「離婚した親に会いに行く」という絶妙な緊張感を持たせてみました。

トモヒロツジ なるほどね、だからあんなギスギスした人間関係だったんだ。

藤本薪 『おやすみ』のときは機能不全気味な家族だったけど、そういった想像しやすい緊張感から始まると、嫌なリアリティが乗るんですよね。実際の怪異が起きる前から「なんか嫌だな」と思わせる構図が好きなんです。

トモヒロツジ 確かに。機能不全な関係性しか描いてないかもしれない、俺たちは(笑)。これまでの撮影で、『車中泊』の時の俺と藤本くんが一番ラブラブだった説すらある。

ykpythemind もしかして、俺たちってプライベートでも人と親しくできない人間なのかな?(笑)親密な人間関係のイメージが全然湧かない。

トモヒロツジ 「仲の良い関係」というものにリアリティを感じていない可能性はゼロではないね(笑)。

osd それに、人が仲良く喋っているだけの映像を見ても、あんまり面白くないですしね。

藤本薪 ホラー映画の定番だと「調子に乗った大学生グループがひどい目に遭う」みたいなのが多いけど、実際のホラー映画ってそういう関係だけじゃないよね。

清水崇監督の最新作、口に関するアンケートも定番の設定から始まる。
清水崇監督の最新作、口に関するアンケートも定番の設定から始まる。

ykpythemind そう。すごく仲の良い相棒的なキャラクターが描かれた末に、片方が死ぬ展開って、めちゃくちゃ感情を揺さぶられるじゃん。そういう感受性は自分たちにもあるはずなのに、いざ自分たちで作るとなると、そういう温かい人間関係が全然生まれてこない(笑)。

トモヒロツジ それって、俺たちが人間にそこまで興味がないってことなのかもしれない(笑)。

藤本薪 人間関係は怪異を引き立てる「舞台装置」でしかないと思っている節はあるかも。ただ、僕が今回やりたかったのは、「失ってもいいどうでもいい関係」にはしたくなかったということ。離婚したお父さんに会いに行くのも、なんだかんだでお父さんのことが好きだから行っている、という心の繋がりは残したかった。大切じゃないものは、観ていてもどうでもよくなっちゃうからね。

藤本薪 今回の『水源地』の怖さの核について、最初の段階のosdくんのアイデアはどこにあったの?

osd 僕の最初のイメージでは、ストーリーの芯というよりは、とにかく「ある場面」が頭に浮かんで、それが怖かったという感覚でした。

ykpythemind それ、いつも言ってるな(笑)。

トモヒロツジ osdくんって、文字(脚本)じゃなくて完全に「絵(ビジュアル)」が優位なタイプなんだよね。それはすごく良いことだと思う。

藤本薪 「村の中で、極端に水の使用量に差がある」っていう、状況そのものの不気味さだよね。

osd そうですね。画や展開に異常性を乗せたくて。「一気に水をバシャッと大量に噴き出す絵」を強く見せたいがために、逆算して作った設定だったんです。よりダイナミックに見せるための舞台装置みたいな。

トモヒロツジ なるほど。「水が極端に偏っている村」というテキスト情報として捉えているのか、「村の1箇所から凄まじい勢いで水が出ている様子」という1枚の絵として捉えているのかの違いだね。

osd イメージとしては、「水を大量に出すことによって、何かを呼んでいる」という流れで。その「呼ばれた何か」が実際に来ている、という状況が理解できたときに僕はすごく恐怖を感じるので。その呼び出しの合図として、水が噴き出す状況を作れると面白いなと思っていました。

ykpythemind 意外と、俺たちはまだオサダくんが脳内で思い描いている「本当の恐怖」を表現しきれていない気がする(笑)。

トモヒロツジ オサダくん、いつも雰囲気でしか語らないから、これ以上掘り下げられないんだよね(笑)。

osd 自分でも分かってないのかもしれないです(笑)。

トモヒロツジ だからこそ、ワンルームで完結する「osd脚本」が上がってきたら、1回全員で脳内を解剖する企画をやってみたいね。

生成AI、植物、そしてGH7への回帰

ykpythemind 今回は技術的な試みとして、生成AIを使用しています。

藤本薪 「新しい技術をうまく使う」というのは、シーズン4の裏テーマでもありましたね。

ykpythemind そうそう。俺が勉強代を払って、東南アジアの映画監督がやっている「AI生成を使ったショートドラマの作り方」という3時間のウェビナーに参加してさ。そこで学んだワークフローをそのまんま今回の『水源地』に投入したんだよね。

osd そのワークフローのまま使いましたもんね。

ykpythemind プロトタイピングを通して、「本当にこのやり方で作れるんだ」という確証が得られたから、重要シーンでも堂々とAIを使えた。

トモヒロツジ 技術的にはすごく勉強になったし、2026年現在のAIの面白い使い方ができたと思う。

ykpythemind それと、今回のもう一つの強みはオサダくんの3DCG技術だね。「生成AI」と「3DCG」という2つの軸があったのがすごく良かった。

osd あとは、藤本さんが発明した「顔写真入りのペットボトル」。

ykpythemind あれ、想像の数倍気持ち悪かった(笑)。

トモヒロツジ 作品の成功を確信したキラーアイテムだったね。

ykpythemind 今回は予算が限られていたから、小道具やロケーションの工夫が本当に大事で。

トモヒロツジ 植物の手配にお金をかけられたのも良かった。霧吹きで観葉植物を手入れするシーンがあるんだけど、絶対にホラー好きな友人から植物を借りようと決めていて。

藤本薪 あれだけの熱帯植物は普通手に入らないから、映像の見栄えとして素晴らしいこだわりポイントでした。

トモヒロツジ 黒沢清監督の『回路』という映画で、登場人物が観葉植物の卸売をやっているんだけど、あの熱帯植物が醸し出すリミナル感というか、湿り気のある独特の質感を表現したくて、今回どうしてもやりたかった。

『回路』の不気味なリミナル感を目指し、友人から借り集めてセットを埋め尽くした大量の熱帯植物。
『回路』の不気味なリミナル感を目指し、友人から借り集めてセットを埋め尽くした大量の熱帯植物。

osd あとは、機材面での大きな変化として、カメラが変わりましたね。

トモヒロツジ GH7に戻ったね。

LUMIX DC-GH7。マイクロフォーサーズのフラッグシップ機で小型軽量。
LUMIX DC-GH7。マイクロフォーサーズのフラッグシップ機で小型軽量。

osd 原点に戻ってきた感じがありますね。

藤本薪 前(FX3)のほうがシネマティックな絵だったけど、GH7のほうがin-factoらしい質感が出ている気がします。

トモヒロツジ FX3は「映りすぎちゃう」というか、手元で制御しきれずに映像が暴れている感覚があった。

ykpythemind もちろん、ライティングを作り込めば最高の絵が撮れるカメラなんだけど、俺たちが求めているのは「映像としての綺麗な美しさ」だけじゃないからね。作風的にもGH7のほうが合っていると思う。GH7は手ブレ補正が異常に効くから、三脚を使わずに手持ちでガンガン撮影できる。この圧倒的な機動力のおかげで、カメラワークの自由度が劇的に上がった。

トモヒロツジ 今回、今までにないアングルや画角に挑戦できたのも、カメラの機動力のおかげかもしれない。それにしても、FX3を買った当時のユキトは脳みそがバグってたよね(笑)。39度の熱があるような顔で「買っちゃった…」って言ってた。

ykpythemind まあ、1回フルサイズを通ったからこそ、今回のマイクロフォーサーズの良さが分かったということで(笑)。

田舎ホラーへの憧れと、シーズン4の始動

ykpythemind いつかチーム全員で旅行がてら、地方で撮影合宿とかやりたいよね。

藤本薪 北海道編とか。

トモヒロツジ 俺の実家でもいいよ。母親も歓迎してくれると思う。蔵もあるし、周りは田んぼだらけだから、最高の田舎ホラーが撮れる。

ykpythemind めちゃくちゃ行きたい。辻のお母さんに、辻の昔の恥ずかしい写真いっぱい見せてもらおう(笑)。

トモヒロツジ そもそも、母親に多分全作品見られてるのがなかなかね。『天使化』撮った時は、これは流石に親には見せられないなと思ったから…。

藤本薪 東京で体張ってホラーを撮っている息子の姿(笑)。

ykpythemind というわけで、シーズン4もいよいよ始まります。新作『水源地』、ぜひお楽しみください。

藤本薪 よろしくお願いします!

osd よろしくお願いします。

トモヒロツジ お疲れ様でした。

2026/07/02 収録