in-facto

おもしろいホラーとおもしろくないバラエティ

「おもしろいホラー」をつくるために

ykpythemind じゃあ今回は、『マインドクラッシャー』。ようやく公開できました、お疲れ様でした。

ykpythemind ついに、今回からシーズン3としての活動を開始しております。

藤本薪 なんか違うことあるんですか。

ykpythemind 昨年末、シーズン2の終わりとしてin-facto meet upをまた開催して、そのときにシーズン3のコンセプトとして「おもしろいホラーをつくる」っていうのをミッションとして掲げました。

藤本薪 前は言ってなかったんだっけ。「おもしろいホラー」っていうワードって。

ykpythemind 言ってないですね。

藤本薪 そうなんだ。おもしろいっていうのはさ、別にfunnyなっていうわけではなく?

ykpythemind そうね、広く取った意味で。interesting的な意味ではある。でも、funnyなのもいいよね。ホラー自体そういう要素もあるし。

トモヒロツジ なんかホラーと笑いの共通点みたいな、そういう話はしてたよね。

ykpythemind うん、そう。『椅子』の最後のシーンも、ちょっと笑っちゃうみたいな意見も見た人からはあって。

トモヒロツジ そうそう。で、それもまた1つ意図していたぐらいの感じではあったけどね。まさに紙一重という感じ。

ykpythemind 突拍子もなさというというか、個人的には好きよ、あれぐらいの感じは。

osd うん、なんか、全体の収まりというか、バランス感みたいなのが取れてますよね。

藤本薪 やっぱり予想外のことが起きるっていうのが、笑いにも怖さにも共通してることで、改めて分解しても同じ構造が含まれているとは思うんだよね。

トモヒロツジ うんうん。緊張と緩和ってやつやね。

藤本薪 そう、それもそうだね。

ykpythemind meetupから3ヶ月、4ヶ月間ぐらい何やってたかっていうと、とにかくプロットをめっちゃ書いてて。ちょっとシーズン3がどうなっていくかを見届けていただきたいんですけども(笑)

トモヒロツジ その4ヶ月で、これやなっていう新しいプロットの作り方というかメソッドができて、それをベースに今動き始めているというような感じで。

藤本薪 今後出てくるやつも一応それに乗っかってるものになっているでしょう、うん。

ykpythemind なんか明らかにね、作り方が変わったし。変な迷いとか減った感じはすごいする。

osd ですね。結構根本から変わってますからね。

藤本薪 なんか今までの作り方ってさ、すごいいろんな薬品混ぜて偶然光ったら、あー成功したこれ。みたいな感じだった。

トモヒロツジ マジで掘り当てるまで掘り続けてたから。

ykpythemind そう。まあ、それが俺ららしさを生んでいたとしたら、また今後は「らしさ」は違う方向に変わっていくのだろうと確信してるけど。この潜伏期間を経たことで、みんなで一定ひとつのものを信じて作ることの楽しさを実感したのと、今までないものを作れそうな感覚が湧いてきた気持ちはある。

osd そうっすね。今回の作り方は20本くらいyoutubeにホラー動画作って出してきたからこそできてる作り方な気もしてて。自分としてはこれまで難しかった部分が、納得いける形で出し切るところまでいけて、その良さを伝えるフォーマットみたいなのもあって、場が整ってたので集中できたというのはありましたね。

トモヒロツジ 今回は結構分業してるんだよね。素材作りから撮影、編集に至るまで。みんなを信じるっていう、その信じ方のベクトルがシーズン3は違っているという。みんなの「怖さ」とみんなの作業を信じる方向に変わっていってるっていう結果な気がする。

ykpythemind 事前に作った素材もあったうえでの当日の撮影があったからこそだと思うんだけど、その素材も「これでいくか」みたいなグラウンド整備がされて、作るまでに色々な感覚がすり合っていたからこそ、この作り方できたなっていう感覚はある。

トモヒロツジ そうだねえ。

ykpythemind これで意味わかんねえと言われても、今までのファンが全員離れてっていってしまっても、シーズン3はもう何本かやり続けるからね。

藤本薪 僕らの感覚を試す検証期間かもしんない。おもしろいと思うけど。

トモヒロツジ ただ、俺らが信じたいものを信じすぎてた説とかは。

osd 全然ありえる。

藤本薪 往々にしてある。そういうことは。

ykpythemind 内輪で盛り上がっちゃったか。みたいな。

トモヒロツジ 脚本の分業だと、原案と詳細に書く人が分かれているっていうのが1個あるよね。

藤本薪 なんかそのさ、今までは作品を理解している人が1人いて、他の人間がそれの理解に回ってたんだけど、今回は分散してる気がする。みんなの中心に作品の中心というのが置かれてるような気が。

osd 『虫を取り続ける』とかで、僕が出したワードが乗っ取られてみたいな話とかあったじゃないですか。

osd 今は、乗っ取られて何かが光るっていうよりは、元々何か光があるものにどんどん光が重なって行くみたいに思ってて、その混ざり具合がうまいこといってる感じがありますね。

藤本薪 うん。いい感じにつくり方の話が深まってきましたが、詳細についてはここでは語れないので。

ykpythemind こっから先は、有料コンテンツで、的なね。

フェアなジャンプスケア

ykpythemind ていうところで、今回はどんな作品ですか。

藤本薪 今回の話で僕、大事だなと思ってるのがジャンプスケアとの付き合い方で、それが結構テーマとしてあると思ってるんですよね。例えばCGのとことか。そこらへん皆さんどうですか。

トモヒロツジ 俺は、あえて分類するとすれば、卑怯じゃないジャンプスケアだと思ってるかも。

ykpythemind なんか嫌な言い方だな。そもそもあそこの映像は、osdくんが1人で作ってきたんだよね。あの異常な映像を。

トモヒロツジ あれは輝いてたね。ダイヤモンドの原石のように。

ykpythemind osdくん、このために一からblender※1 触って作ってくれたんだけど。こういう才能あるんだ、信頼できるなってめっちゃ思った。

※1 3DCGやVFXをつくるためのソフト。

osd 嬉しいですね。

トモヒロツジ なんかね。osdくんの根底にある不定形なホラー感と3DCGとの相性がいいような気がしてるよね。空虚さと悪趣味さを成立させてる美的感覚…。

藤本薪 またわかんない話して。

ykpythemind で、その映像が上がってきて見たとき、俺は普通にマジでびっくりしちゃって、携帯を手放してしまった。

トモヒロツジ 俺は想像の範疇の動きではあったんだけど、絶妙に間をはずしたびっくりがあったよね。藤本くん的にはあれはジャンプスケアの分類なんだよね。

藤本薪 一般的とか僕が言うのはあれだけど、苦手な人とかから見たら十分ジャンプスケアだと思ってる。

トモヒロツジ SNSで『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の近藤亮太さんが言ってた のは「でかい音と映像の動きとの合わせ技がジャンプスケアだ」みたいな話で。俺はそれに超アグリーって思ったんだよね。

ykpythemind だから『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』はnoジャンプスケアです、ってやつね。

藤本薪 その話で行くと、確かに今回それをやってるのはないかも。

ykpythemind 俺たちが作ったジャンプスケアといえば『土下座』だね。

トモヒロツジ 最近、あの動画も見られるようになって、それにつれてコメントにジャンプスケアへの憎しみをあらわにする人も現れ始めてて…。

藤本薪 僕はジャンプスケアやってくべきだと思うんだよね。

ykpythemind ジャンプスケアって、それ自体が抑止力。あれが手札としてあるだけで強いみたいな。

藤本薪 そうそう、それはあると思うんだよね。

トモヒロツジ ジャンプスケアの功績って、ジャンプスケアを発明したことじゃなくて、”ジャンプスケアが来るかもっていう時間”を発明したことにある。

藤本薪 そうそう、そうです。抑止力ってそういうこと。なんか絶叫系とかもそうだけど、心身に負荷をかけるっていうこと自体を悪としすぎる風潮が最近あって。例えば犬が死ぬ映画はできないとかさ。だからジャンプスケアのないホラーっていうのも今の文化なのかもしれないけど。でもそれってなんて言うんだろう。グラフィティアートの犯罪の側面だけを抜いて、なんかその文化だけ搾取したみたいな気持ちになるんだよね。

ykpythemind なんか俺たち大人になったな。

トモヒロツジ 俺、そもそもホラー作りたいと思ったの、みんなが日常生活にもっと緊張感持ってほしいと思ったからだったの思い出したわ。

osd 生活への抑止力。

ykpythemind 今回は撮影、編集色々大変なこともあったんですが、結果として今家にビデオデッキがふたつあります。映像をVHSにダビングしたり、ビデオデッキを使っていろいろやってるんだけど、特に巻き戻しのところで色々こだわって時間使ったのは良かったなと思う。

トモヒロツジ 俺がめっちゃ食い下がったっていう。

ykpythemind なんか普通に巻き戻すと、時間とか出ちゃって、そういうビデオっぽいところをなんか意識させすぎるのも、なんか違う話なんだよなってなって。

トモヒロツジ なんだろうな、VHSに録画されてるものだっていうのを、あそこから感じ取れるの自体は良くて。ただ、それが普通のVHSだと思われると…。

osd 確かに、作品としても、”このコンテキストの外側”みたいな話があるから。

藤本薪 それ整理するためにレイヤーの図、書いたよね。

みんなの議論が空中戦になりかけて図を作ったりした
みんなの議論が空中戦になりかけて図を作ったりした

トモヒロツジ そうなんだよね。実はそのレイヤー構造を、多分俺らも7割ぐらいしか共有してないんだと思ってて、残り3割は各々の解釈に任せてる部分があるくらい幅がある映像になったと思ってて。だからみんな思い思いの捉え方で楽しんでもらえるんじゃないかなと。

藤本薪 正解はあるんじゃないの。あるのが僕はフェアだと思ってるよ。

ykpythemind 出た。フェアかどうかの議論ね。

トモヒロツジ そうそうそれね。俺、今回はみんな合意で正解を明示しないっていう正解を作ってるから、フェアだと思ってんだよな。

ykpythemind ぽいのはこれかなっていうのは思ってるんだけど、でも自分的にはこう捉えてる、みたいな。

藤本薪 そうだね。言うならば、脚本書いたosdくんの中にあるのが正解であるけど、我々の解釈がどんくらいそこに迫っているのかレベルの話。正解がないとは言わないんだけど一応ね。

osd そういう意味で言うと、投げてるっていう感覚ではないですよね。各々解釈がちゃんとあって、軸はあるからっていう話。

藤本薪 うん、答えがないっていう風には捉えたくないなって思った。

トモヒロツジ うん、まさにフェアということですよ。それが。

藤本薪 『フェアな殺人者』 っていう、イチローが古畑任三郎に出てる回があって。1度もイチローはね、嘘をつかないの。作品中で。

ykpythemind なんかリアタイで見た記憶あるよ。小学生のころ。

トモヒロツジ それが藤本くんのフェア精神に繋がってる。

藤本薪 そう、イチローのフェア精神。

osd 良い子だな。

藤本薪 で、この話を何で俎上にあげたかなんだけど、ジャンプスケアの話とも関係するんだけど、冒頭でいきなりちょっと怖い映像が流れるのってフェアじゃないよね、みたいな話はしたよね。

トモヒロツジ そうね。みんな藤本くんの言うフェアじゃなさを分かってたけど、ギリ許されてるというか、軟着陸してるから通ったって俺は思って。

藤本薪 あれはギリギリのバランス感だと思ってる。

ykpythemind まだちょっと卑怯だと思ってるんだ。

藤本薪 まだちょっと卑怯だと思ってる。サムネと全然違うから。いや、でもね、いきなりこう、デーンっていう声とともにグロテスクな画像が出るとかじゃないし。うん、「釣られたなポッター」でもないからいい。謎が深まってていいとは思う。

「おもしろくないバラエティ」をつくる

藤本薪 今回は分業ポイントとしてマインドバラエティは大体僕が作ってるっていうあれがあります。注文としては、あんまりおもしろくない番組。

ykpythemind フジモトくんが自分から率先して、マジでおもしろくない番組を。

osd うん、なんかもっとおもしろくできるのに。なげえっす。

藤本薪 うん。でも、そういうコンテンツって逆行してていいかもと思った。そのさ、ショート動画とかはさ、すぐ効果が現れるものをよしとするから。だらだらとギリ見れるみたいな面白さの情報が流れる動画ってあんまないよねって。

osd うんうんうん。

トモヒロツジ なんかね、あれぐらいの情報密度であってくれって思っちゃうかもしれないな。最近のいろんなコンテンツ見てると。

藤本薪 ただ、テレビでつけてて、あれ流れてきたらチャンネル変えないけど、youtubeで選んで見てた時にどういう手触りになるかなってのは僕はちょっと分からなくて。10秒10秒で飛ばしちゃわない?っていう。その飛ばしたくなる退屈な時間すらも、我々が提供してる体験ではあるから、飛ばしてほしくはないけどね。

『柴田イサオのマインドバラエティ2』地方のTV局のワンマン社長が趣味で作ってるバラエティ、という裏設定がある。
『柴田イサオのマインドバラエティ2』地方のTV局のワンマン社長が趣味で作ってるバラエティ、という裏設定がある。

osd いや、でも、ホラーとしては退屈かもしれないけど、コンテンツとして退屈じゃない、っていう時間をどう作るかみたいなのは結構シーズン2からずっと課題であって、色々試行錯誤してたなみたいな。

ykpythemind 確かに、今回めっちゃ頑張らずともそう収まった感じはすごいよかったね。

藤本薪 今回だいぶ二人に助けられた感じはありますね、俳優の。

osd それも毎回言ってる気はするんですけど今回違うなって思ったのは、普通に演じてもらっても成立するように脚本も作ってたところに、プラスアルファを提示してくれた感じがあったからかもしれないですね。

トモヒロツジ そうそう。すごい勉強してくださって。喋る内容についてメモびっしり書いててくれてて。

ykpythemind いや、ほんとにね、嬉しかったよね。

トモヒロツジ うんうん。役者さんからこういうフリップが使いたいですって言われて、「作ります作ります!」って。

ykpythemind 実はこの映像、最後もあんまりない終わり方なんだよな、これを面白がって見てくれる人がいると嬉しいけどね。本当に俺たちの内輪ネタで終わらずに。

osd 4本ぐらい撮って、5本目とかで、「私たちの作り方が間違ってました」とか…。(笑)

藤本薪 その時はもう「おもしろくないホラーを作って申し訳ありません」動画を作って出す。

『事故物件鑑定士試験』をよろしくお願いします

トモヒロツジ あとこれ、最後に絶対言っておきたくて。表立って動いてなかった期間も色々お仕事させてもらったりとかしたので。

ykpythemind そうそう。第四境界さんのイベント『東京侵蝕2025』のですね、事故物件鑑定士試験の映像を作らせていただきました。

藤本薪 私、osd、ツジの3人は実際に現地でやってきたけど。色々感じるものがあってありがたかったですね。

トモヒロツジ いや、すごかったね。本当に感心しきりだったのは、こんなに受け手のこと信頼して成り立ってるコンテンツがあるんだっていう。

ykpythemind でも大事かもね。受け手をバカにしないみたいな。

トモヒロツジ そうそうそう、そこに真摯に向き合っても作ってこうぜっていうのが、やっぱあるんだろうなと思って、なんか、大事だよなと思ったよね。

osd オンライン版が出ているので、未体験の人はぜひ。

トモヒロツジ では、改めてシーズン3もよろしくお願いします。

2025/05/16 収録

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